ピアノの前に座る

バイエルを始める準備

初めてパソコンで文字を打ち込んだとき、文章が打ち込めるように 一生懸命練習しませんでしたか?ブラインドタッチを身につけようと 練習ソフトの指し示すkeyを、ただひたすらに打ち込むことに多くの時間を 費やしませんでしたか?最初のうちは練習を1時間もしていれば、 手首は痛くなり腕はパンパン、肩はキンキン、背中から腰に至るまで 突っ張ってしまった事でしょう。でも慣れてくるに従い、今まで使ってこなかった 部位に筋肉がつき、自分にとって楽な姿勢を自然と見つけ出し、気がついて みれば長い時間keyを打ち込んでいても「あー、疲れた」程度で済む ようになったりします。

ピアノを弾き始めたときにも同じ経験をします。しかもピアノは パソコンのkeyを打ち込む動作よりも、ずっと多くの動きが要求され ます。ピアノを弾くという事は全身を使うという事に他ならないのです。 昔、ビートたけしさんは故・中村紘子さんのコンサートを聴いて 「まるで道路工事のようだ」と感想をもらした事を知っている人もいるかも 知れませんが、それは演奏が酷かったということではなく、それほど 体中の筋肉を使ってピアノを弾いているということの例えだと思われます。 ピアノを弾くのには、大変な力と運動が必要なのです。

そんなことを何時間もぶっ続けでしていては、筋トレフリークも 真っ青。ではなぜできるのでしょう?それは常に使っているのは腕や 体を支えるわずかな筋肉だけで、後は鍵盤を打鍵したり手を移動させたり ペダルを踏んだりという動作の一瞬だけしか力を使っていないからです。 もし鍵盤を打鍵している間中、最大限の力を入れ続けるとしたら数分の曲 も演奏できないでしょう。また、常に筋肉が緊張する事になるので複雑な 速い曲などは絶対に弾けません。これがピアノ演奏のキーワードと 言われる「緊張と脱力」の関係です。

ピアノを習っている人の多くは、この訓練を初期の段階から繰り返し、 すでに修めています。「でも、超初心者の大人は大曲を弾くことなど関係ない からそんな難しいこと習得しなくてもいいんでしょ?」とお思いの方も いるかも知れませんが、実は超初心者の大人であるからこそ、この「緊張と脱力」 をマスターすることが肝心なのです。

いままでそれほど使ってこなかった10本の指を独立させて 動かそうと思えば、ついつい肩・腕・手首・指の全部に力が入ってしまい 結果、意思に反して指が動かないという事が起こってしまいます。 それでも無理やりに何とか動かし続けて努力するとしたら、バイエル卒業への道が苦痛に満ち た辛く苦しいものとなってしまうばかりではなく、手を傷めてしまう 危険すらあります。

ただでさえ思うように指など動かないのです。その上ガチガチに 固まってしまっては益々動かなくなるだけなのです。「緊張と脱力」 を身につけるのはなかなか難しく一朝一夕に実現できるものではありません。 それでも、どうにかして最小限の意思で指が動くように、是非とも しなければなりません。しかし、色々と小難しい理論を理解しようとしても 今はまだできないので、ここはひとつ大人の知恵を働かせ、 ミーハーの王道、形から入りましょう。

そのためには、ピアノを弾くときは何も考えずにピアノの前に 座ってはいけません。まず、立ち上がってみてください。手には一切の 力を入れず、ダラーンとぶら下げたままです。そのまま肘から先~ 手首までの腕部分だけを使って、床と平行、自分に対しては直角になるように腕を上げます。 四谷怪談に出てくるような幽霊の手みたいになりましたか? 次はそのまま手の甲と腕が直線上になるまで手首を上げます。 指は手の甲よりは下に自然に丸まって垂れ下がっているはずです。 そのままの状態でピアノの前に座ります。たった今できたフォームを 崩さずに指先が鍵盤の上に置ける高さに、椅子を調整してください。 そしてフォームを崩さずに座れる程度の場所に椅子を配置します。 鍵盤と椅子の間には結構間が開くことになると思います。少なくとも 机に座って何かを作業するような間隔では椅子は置きません。 また、置いた椅子にどっぷり深く座ってもいけません。両方の足が 床から離れてしまったら前のめりになってしまいそうなくらいの ところに、坐骨だけ乗せるような感じです。

どうですか?そのフォーム のまま横から見た感じで、自分の肩から指先までが配管の パイプになったと想像してみてください。そのパイプの上から 中にボールを落としたとして、そのボールがパイプの出口である 指先からきちんと出て来そうな形になっていますか? 洗面台のS字配水管のように、肘よりも手首が高くなってしまったり してませんか?途中でボールが止まったりしてしまう形では 意思伝達のボールは指先までとどきません。途中で止まってしまった ボールを動かすために余計な力を加えないといけなくなってしまいます。 最小限の力で指を動かすためには、常にボールの動きがスムーズ となるように気をつける必要があります。フォームを維持するのは 大変かも知れませんが、イメージを持ち続ける事が重要です。

スタンドなどが付属されていないキーボードなどの場合でも、 フォームを形作れるような机や台の上に設置して練習を始めて ください。付属の椅子が高さを変えることが出来ない椅子の場合は 高さを調節できる他の椅子を使うか、それも出来なければせめて 意識のボールが流れやすくなるように意識を高めて練習に臨んで ください。イメージはとても重要です。なぜなら、イメージすら できないような事を行うのは困難だからです。逆に言えば、イメージ を鮮明に維持することが出来ていたら自然と実現できるように なったりします。

さぁ、それではいよいよ鍵盤を弾いてみましょう。

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