酢ばす・レンコンの甘酢漬

酢蓮和食

瀬戸内海沿岸に、岩国ということろがある。岩国とは 山口県岩国市のことである。岩国は山口県と広島県の県境にあり、清流で有名な 錦川、錦川にかかる錦帯橋、清流で育った鮎や鵜飼、岩国にしか生息していない 天然記念物の白蛇、米軍基地などのおかげで、人口は山口県内5番目(2021年現在)という 中途半端な規模の都市ながら存在感あふれる街だ。

自然を売りにしているのかと言えば、実はそうでもない。コンビナート 地帯の一角を占めており、石油化学工業の工場が目立つ。高速道路の インターや新幹線の駅があり、山陽本線のほか岩徳線や錦川鉄道の拠点でもあり、 産業集積都市として周辺にベッドタウンも抱える県東部の中心都市なのだ。 しかしそれと同時に、15分に一本設定されている快速電車に乗れば広島市まで 40分の通勤圏となり、岩国地域全体が広島都市圏に取り込まれて しまうためベッドタウンな側面ももっていると言う、なんともユニークな 存在なのだ。しかし、その中途半端な利便性が幸いして、人口減に頭を抱える地方都市 にあって特に何か策を講じているとも思えないのに、 10万都市を中途半端に維持できているのだから面白い。

こんな岩国であるが、歴史は深い。長州毛利家分家筋で支藩扱いの吉川家6万石 の城下町として旧城下には古い町並みも残り、岩国文化と言われるほど 成熟した文化や、食においても岩国ならではの郷土料理がある。中でも 私が好きだったのは岩国寿司であった。故・宇野千代さんが著書の中で 紹介したこともあるらしく、私は岩国に行くまで知らなかったのだが、 思った以上に人口に膾炙している郷土料理であるらしい。

岩国寿司とは、世間一般でいう所のちらし寿司である。初めて岩国寿司 を見たときは「これの特徴は何なのか?」とも思ったくらい普通に見えた。 違うところと言えば押し寿司のちらし寿司であるということくらいだったのだ。 しかし、この押し寿司は2段にも3段にも間に葉っぱを挟んで重なっている。 葉っぱの押し寿司と言えば、柿の葉寿司や笹寿司などが思い浮かぶが、 それらのように葉っぱに包まれているわけではなく、ただ間に挟まれて いるだけである。寿司の具もシンプルであった。魚の酢ジメが少しと、蓮根、 錦糸玉子にシイタケの甘煮、春菊や絹さやなどの青味と桜色のデンブ、 こんなもんであった。

しかし、知らずに食べてしまえば気づかないようなところに大きな特徴が あるらしい。まず、作り方が変わっている。三升とか五升とかの米で 寿司飯を作り、それを大きな木の枠に葉っぱを挟みながら五段くらい程まで 重ねつづけて何時間も重石をするという。この製法で一回に数十人分ほども 出来るというから驚きである。出来上がった巨大な押し寿司の固まりは、 刃渡りの長い専用の包丁で方形に切り分けられるために、葉っぱが間に挟まった 押し寿司となるらしい。

もう一つ、大きな特徴がある。レンコンだ。岩国は作付面積、収穫量ともに 全国5番目(2004年現在)と言われるレンコンの産地で、「岩国蓮根」というレンコンも 大変有名なのだ。この岩国蓮根は、穴の数が普通のとは違うと言われている。 私の記憶では、中央に一つと周りに8つの計9つで普通のよりも穴の数が 一つ少なくて肉厚である。だがしかし穴の数が一つ「多くて」9つだと言われている 事もあるのだ。一般的な蓮根は中央1つ・周9つの計10穴らしいので、岩国蓮根 の穴が全部で9つなら「少ない」となるはずだし、周りの穴が9つなら普通の蓮根と同じ である。岩国蓮根の穴が多いのか少ないのかは都市伝説並みに信憑性のカケラも なくなってしまっているようである。がしかし、このレンコンはとても美味しい のだ。煮物なんかにすると噛み切る時に食物繊維の糸を引くくらいにモッチリ している。岩国寿司にはこの岩国蓮根が欠かせない。

レンコンは火を通したのをそのままスライスして乗っかっている事も あるが、個人的には「酢ばす」にして散らし寿司に使うほうが好みである。 レンコンは皮むきで皮をむいたら3mm厚くらいにスライスして水に浸け、 アク抜きをしておく。甘酢の材料をすべて合わせて火にかけ、煮立ったら レンコンを入れる。2分位強火で煮て周りが透き通り始めたら火を止め、 速く冷めるように甘酢ごとボウルなどに移し、粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。 「酢ばす」はかなり日持ちするので多めに作って、いなり寿司のすし飯に混ぜ込んだり 箸休めにしたりすると良い。


材料1回分レンコン好きなだけ・皮をむいて3mm厚にスライスしてアク抜きする
甘酢醸造酢(白くしたい時は普通の酢)・1カップ
砂糖・大匙4
だし汁・50cc
塩・小匙四分の一
昆布茶少々・鷹の爪
作り方甘酢の材料をすべて鍋に入れて沸騰させる
沸騰したらレンコンの水気を切って鍋に入れ、数分煮る
レンコンの周りが透き通ってきたら火から下ろし、粗熱をとってから冷蔵庫へ
備考火を通しすぎると歯ごたえがなくなってしまうので注意。完全に火が通らなくても余熱で火が入る。清潔な密閉容器を使い、レンコンが甘酢に浸かっていれば数週間日持ちする。食感は変化してしまうが冷凍保存もできる。

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