その13のつづき
話は変わるが、私が一番好きだったピアニストで、原田英代さんと言う方がいる。
海外に拠点を置かれているらしく、日本では残念ながらあまり知られていないらしいが、重量奏法でさまざまな音色を奏でられて、あやふやな所など微塵も感じない、一本筋が通った演奏をなさるピアニストでいらっしゃる。私は、コンサートにも何回も行ったし、CDも聴いてたし、ぶっちゃけるとサインまで持っている。
ネットでピアノ教室の情報を集めていたら、こんな田舎で幸運にも?この原田英代さんの弟子という先生を見つけた。自前の教室サイトをお持ちで、10年くらいブログも書かれている。ブログによると、大人の生徒もまぁまぁ居るらしく、大人の生徒だけの発表会の記事には、中年男性の姿もあったから、もしかしたらレッスンしてもらえるかも知れないと思い、コンタクトをとってみた。
すると、歓迎していただけるとの事だったので、さっそく体験レッスンに伺う。
この先生のサイトを片っ端からチェックすると、ちょっと不安な要素もあった。まず、これだけの情報を公開していて、ご自分の画像なども公開していらっしゃるし、かなり自己顕示欲が強そうだと思ったこと。さらにプロフィール欄には、過去、ハイフィンガーで教育を受け、ピアノ教師になってからも生徒にはハイフィンガーを強要して厳しくレッスンし、ピアノ嫌いを増やしたかも知れない、当時の生徒の方ゴメンナサイとか書かれてあった。
でも、原田英代さんに出会って衝撃を受け、弟子にしてもらって重量奏法を習得し、心を入れ替えて、楽しくなければピアノじゃない!風のレッスンをしているとの事であったので、一抹の不安も感じながら、お目にかかることに。
サイトの感じからもある程度想像できたが、実際会ってみると、ちゃきちゃきチャッキリとした感じの妙齢おばさん。多少不安もあったため、いつもより念入りにレジュメを作成して行ったが、レジュメを全部読む前に、次々話が始まる。チャッキリ先生は、そうとう話好きだ。
私の過去の先生達について書かれているところを読んでは、「今時こんな先生、いるの?」などと感想を漏らし、ちなみに何という先生?とか色々訊いてくる。ブログにも、全国各地のピアノセミナーに参加しているし、本もたくさん読んでいるようだし、コンサートにも足しげく通って、いくつかのピアノ団体にも所属している事が書かれていたから、単純に後学のために訊いてきたのかも知れない。
一通りレジュメについての話が終わった頃、チャッキリ先生は、
「重量奏法をちゃんと勉強したいなら、わたしが習っている先生を紹介してあげるから、そっちに行ったら?」
とおっしゃる。何でも、これまた原田英代さんの弟子で、あちこちの大学やら学校やらで音楽を教えている先生が県内に居るらしい。その先生に、チャッキリ先生も月に一回はレッスンをつけてもらっているとの事。
自分としては、何度も言っているように本格的にピアノをやりたい訳じゃないので、そんな大先生様に教えを乞うなんて恐れ多すぎるので、丁重にご辞退申し上げた。でも、チャッキリ先生の手に負えなくなったら、紹介するという話にされてしまった。
さぁ、いよいよ体験レッスンの始まり。
最近私が悩んで試行錯誤を繰り返している、スケールの指くぐりについて、教えてもらうことにした。
重量奏法とハイフィンガーの間には、根本的な違いがあるが、そのうちの重要なポイントのひとつに「指くぐり」がある。重量奏法にも様々なタイプがあるらしいのだが、「指くぐり」については、特にロシア系の重量奏法では、だいたい共通している。
どういう事かざっくり言えば、ハイフィンガーでは文字通り、ちゃんと指をくぐらせて音をつなげるが、ロシア系重量奏法では、指くぐりで指を「くぐらせない」のだ(コルトーメトードのようなフランス系の重量奏法では、指はちゃんとくぐらせるが)。
指をくぐらせる動作というものは、人間工学的に見てみると非常に負担の大きい動作で、これが原因で指や体を傷めることがある。重量奏法では、自然な体の構造を利用して無理や負担がない状態でピアノを弾く(エルゴノミックな弾き方とか言うらしい)というのが根底にあるので、指はくぐらせず、手首などを傾けて指を自然に運び、音をつなげていくのだ。
なので、スケールを教えてもらえば、その先生が何系の奏法なのかが判明する。さらに私はその際、ロ長調のスケールを指定することにしている。それは、ロ長調の指の形が一番自然の状態に近いということになっているからだ。これは、かのショパンが弟子に示したことで有名であるらしい。
ちなみに余談かもしれないが、スケールを弾くとき
・手首は上下させずに親指などを上げさせて指だけくぐらせ、手首の上にコインを乗せても落ちないように弾く、と言われればハイフィンガー
・指をあげろとは言わないが、手首は鍵盤と並行を保って指はなめらかにくぐらせ、音の粒をそろえる(ジュペルレとか言われる)、と言われればフランス系重量奏法
・指はくぐらせない、手首の回転を使えば自然に指が運ばれる、音は切れても大丈夫、と言われればロシア系重量奏法
であると、私は判断している。あくまで個人の判断基準なので、学術的には不正確かも知れない。
で、チャッキリ先生の指導はと言うと、「指はくぐらせない、手首は縦に回転させず横に回転させる、音は切れても構わない」であった。
ここで私は、???となった。新しいパターンが登場したからだ。
スケールで手首を「横に回転」というのは知らなかった。今まで自分はスケールの時、手首を縦というかナナメ縦方向(鍵盤の奥側方向)に回転させる方法しか見たことが無かったし、自分もそうして来たからだ。
でもチャッキリ先生は
「違う違う、手首は、こう。薬指を弾き終わったら親指側に手首を回転させて行って、親指を弾く時には親指は裏返ってるくらいにまで手首を回転させる、そして薬指や中指は鍵盤に持っていこうとしてはダメ。親指側に手首が回転されていれば、親指と同じ位置に薬指や中指が来てるはず。それで親指を一瞬離して薬指や中指を弾く。」
「そして、薬指や中指を弾いた瞬間に、今度は手首を逆側に一瞬で回転させて、親指を開く」「親指が手のひら側にあるうちは力が入っている証拠、力が抜けていたら親指は開いた状態になるはず」
と言うのだ。
文章で書くとわかりにくいが、手首は鍵盤上で親指と小指の間で横方向にシーソー運動、親指を弾くときだけは、親指を離したら瞬間的に小指側に手首をシーソーさせて、すぐに親指は広げて次の鍵盤側に置く、という事なのだ。これでもわかりにくいが、要するに、私がやってきた方法と違う。
この時点で、一抹の不安が、形になり始めた・・・・
つづく
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