茎ワカメのきんぴら

茎わかめのきんぴら和食

二十代後半の頃、四国で働いていた事があった。そこは知り合いの焼肉店で、社長の弟さん が店を取り仕切っており、そこにナンバー2として私が呼ばれたのだ。焼肉屋の経験なんて ゼロの私など迎え入れたとしても、会社としてはなんのメリットも無いと思うが、まぁ、 モノは試しと請われるままに働く事にした。

そこの店は以前、同じ会社の経営で喫茶店であった。建物は3階建てで、1階が喫茶店、2階が 事務所、3階が居室二つといった感じであったのを、3階はそのままで、1階2階をぶち抜いて 2階は座敷に改装し、焼肉屋として再出発することになった。

常連客にとってみれば、近隣に喫茶などあまり無い場所柄、行きつけの店がいきなり炭火焼肉 の店に衣替えされてしまっても、途方にくれたであろう。その所為もあってか、営業時間は朝7時半から 夜10時まで、朝から夕方までは喫茶営業、夜は焼肉店として営業する事になっていた。

とはいえ、店は大改装して炭火焼肉の店内になっており、地酒やワインなど取り揃えた大型冷蔵庫 に始まり、各テーブルの真上には巨大な排気ダクト、テーブルには七輪をいれるスペースが切り込んで ある。店内の片隅に、以前のカウンター席が数人分残っているのだけが、喫茶店を彷彿とさせる場所だった。

メニューはサンドイッチやトーストのモーニング、焼き魚の和朝食に始まり、珈琲紅茶ジュース クリームソーダなどのドリンク類、アイスやカキ氷(通年w)などのデザート類、うどん・そばや 丼もの・定食類等々、喫茶時代そのままに、新たに焼肉メニューが加わるという、一体何屋なんだか さっぱり分からないラインナップと化していた。

昼の時間は、日替わりランチがメインとなる。十人中九人がオーダーする感じだったのだが、 私はこの日替わりランチを一手に引き受けていた。なにせ、店自体がナンデモ食堂状態であったために、 メニューに一切の制約が無く、毎日のことではあったが考えるのが楽しかった。あるときは洋食、 あるときは中華、ざる蕎麦と揚げから炊いてつくった稲荷寿司のセットなどと言う日もあったくらいだ。

この日替わりランチを中華丼にしようとしていた時のこと。店には会社事務所所属の買物係 の中年男性がいたのだが、中華丼の材料で足りないものを仕入れてきてもらおうと、リストを作成 して打ち合わせしていた。私の中では、中華丼と言えば「なると」が入っているイメージだったため、 なんの迷いも無く「なると」をリストに入れておいたのだが、買物係のおじさん曰く、なるとは この土地では存在して無いという。へ?そうなんですか?普段「なると」なんて滅多に買おうと思わないし、 今まで全然気がつきませんでした…。じゃぁ、代わりの何かで…、などと会話していると、私の 隣に居たパートのおばちゃんが、「なるとなら有るで~」と会話に入って来た。

買物係 「どこに売ってる?そんなもん、ないって。」


おばちゃん 「あるある。どこにでも 売ってる。」


買物係 「そんなことない、このあたりでは作ってないはず。」

と他県出身者である買物係のおじさんも食い下がる。そこで私が「まぁ、なるとが売ってたら買ってきてください、 無かったら何か代用できるものでお願いします」と話を引き取ろうとすると、

おばちゃん 「なるとなら確か買わなくてもあったで~」

と、あちこちの棚の中を物色し始める。幾らなんでも、なるとが棚の中に入ってるはずないよ~ と、おばちゃんに言うも、あるはずだと言って聞かない。いや、仮にあったとしても、冷蔵庫にも 入ってない「なると」なんて腐ってるじゃんか…

あったあった!! とおばちゃんが「なると」を持ってきた。おばちゃんの手には、どこから どうみても、透明な袋に入れられた乾燥ワカメが……。おばちゃん、そろそろ古希のお祝いを考え なくてはいけないくらいだから、もしかしてボケた?? 何処が「なると」なのさ?

おばちゃん 「なるとやで~。」

買物係 「なるとじゃないだろ~。」

おばちゃん 「だってここに、なるとって書いてある。」

袋をみると「鳴門(なると)わかめ」と書いてある。はぁ、鳴門…なると、ねぇ。確かに。…って違うでしょ!  しかし、違わないのだ。

四国では「なると」と言えばワカメのことを指すのだそうだ。そういえば、 「なると」の由来は、渦巻き模様を鳴門海峡の渦潮に見立てたところから来ているらしいし、「なると」 といえば「鳴門」で大正解、「鳴門」の特産品と言えば、ワカメ。したがって、四国では「なると」と言えば ワカメ。

正真正銘の?渦巻き模様のかまぼこである「なると」は、やはり四国では売られていないらしい。 かわりに、白地にピンクの渦巻き模様の入った、魚肉ソーセージくらいの太さのものが「すまき」 という名前で売られている。こうして、中華丼には「すまき」で一件落着。めでたし、めでたし・・・


材料1回分茎ワカメ一袋・塩蔵なら塩抜きしておく
お好みの具ちくわ・きのこ・油揚げなど、短冊切りに
調味料ごま油・大匙1
めんつゆ・大匙1
塩・味をみて少々
鷹の爪・1本
作り方フライパンにごま油を入れて、茎ワカメと具と鷹の爪を入れて炒める
めんつゆを入れて、汁気が無くなるまで炒め、味見して薄いようなら塩を振って完成
備考ダシをとった後の昆布を冷凍しておき、量がたまったら短冊切りにして、茎ワカメのかわりに使っても良い

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