ヤマハエレクトーン HS-8

ピアノメインの音楽関係

中学校三年生の時、必要に迫られてピアノを習い始めた。
その際に、色々お世話をしてくれた二つ年上のブラバンの先輩が居て、その先輩がずっとエレクトーンを習っていた影響で、なぜかピアノと同時にエレクトーンも習うことになった。なんでそうなったのかは、自分でもよくわからない・・・

当時、家にはピアノが無く、友人が譲ってくれた古いオルガンで練習していたのだが、エレクトーンは、そうもいかない。鍵盤が上下二段になっているばかりかペダル鍵盤まであるのだ。親が音楽方面に進学するのを反対していたので、月謝は出してくれたのだが、楽器は自分で用意せねばならなかった。そこで手持ちのお金でなんとか購入できる、古いB-101というエレクトーンを中古で購入し、それで1年くらいエレクトーンをやった。

当時、音楽教室にあったのはFS-30(Fシリーズ)というエレクトーンで、これはエレクトーン史上初(だと思う)のFM音源という音源が搭載され、リズムに至っては後にAWM音源と呼ばれる音源で本物そっくりの音で再生されるという、エポックメイキングな機種であった。家では昔ながらのレバーで音を操作するエレクトーンだったが、教室では、飛行機のコックピットのようなボタンで操作し、本物のような音が出るFS-30で弾けるので、めっちゃ楽しく、ピアノの練習よりもエレクトーンばかり練習した。

当時、F-1のテーマとかで非常に流行した、スクエアのTRUTHという曲があったのだが、この曲で発表会も出さしてもらった。でも、中古のピアノを購入し(高校生になってバイト代で分割購入した)、ピアノに本腰を入れなくてはならなくなったので、エレクトーンはやめたのだ。

その発表会の直前、当時新発売されたエレクトーンが、HSシリーズである。そのシリーズの家庭用最高機種がHS-8なのだ。音楽教室でも一台だけ入荷したのだが、準備が発表会には間に合わず、自分も含めてほとんど全員、旧世代となってしまったFシリーズの最高級ステージモデルである、FX-20というバカでかいエレクトーンで演奏した。ただ一人だけ、HS-8で演奏した子が居て、そのエレクトーンの見た目や音、新機能に度肝を抜かれ、弾いてみたくてたまらなかったが、その野望はかなわぬままであった。

HS-8は、エレクトーンで初めて、リズムの打ち込みができる機種だった。今までは既成のプリセットパターンを組み合わせたりして、それっぽいリズムをならしていたものが、どんなリズムも再現できるようになった。そして、Fシリーズではリズムにしか使われていなかったAWM音源(今では当たり前のサンプリング音源・Yamahaではこう呼んだ)も、HS-8では数音だけ(たしかピアノとストリングスとパイプオルガンの音色だけだったような)搭載され、もう本物としか思えないような音が出た。

リズムパターンなども最先端に更新され、自動伴奏の機能もびっくりするほど充実し、当時DX-7というシンセサイザーの大人気機能であったFM音源のエディットまでできるという、まさしく時代の寵児。ポップもテクノもクラシックも、なんでもござれなエレクトーン。発売されるやいなや、テレビでエレクトーンの演奏をするコーナーなども次々にできて、コーナーどころか、エレクトーンの演奏だけの番組まであった。エレクトーンバブル?のピーク直前であったのだ。

HS-8の見た目もスタイリッシュ。黒いボディに色とりどりのボタン、上鍵盤と下鍵盤の間にあった光るレジストボタン(レジストレーションと言って、様々な音色などをあらかじめセットし、曲のシーンに応じて瞬時に切り替えられた。旧世代のFシリーズにもあったが、より進化)が演奏中に煌めき、とにかくかっこ良かった。ペダル鍵盤も、家庭用機種では初の、一オクターブ半もあった。

ただ、残念なことに、操作性が悪かった。Fシリーズの時もそうだったが、レジストを準備するのに非常に手間がかかるのがエレクトーン。下手すると、曲そのものの練習より、レジストを組む時間の方が長いくらい、手間暇がかかった。リズムの打ち込みにしても、昔の電車の方向幕のような、ダイヤルをカチカチ回して表示されるボタンを、あっちこっち押さないとならず、鳴り物入りでつけられた液晶画面も音色の名前などが一行表示されるだけで、現在進行中の情報などは皆無、打ち込みなどしたものを確認するには、いちいち再生して聴かなければならなかった。

そして、何時間も何十時間もかけて作ったレジストデータを保管するのも、当時Yamaha専用品として開発されたRAMパックというファミコンのカセットみたいなストレージしか無かった。このRAMパックは一個に付き一曲のデータ。パックは一つ3000円とかした記憶がある。のちに4曲くらいのデータが保管されるRAMパックも出たが、一曲のデータに何千円もコストがかかるとか、今考えるとぼったくりだ。エレクトーンはデータが無いと事実上、演奏できない。しかも苦労して作ったデータなのだ。当然保管保存し、時々ひっぱりだしてデータを使いたいのに。これは、のちの後継機種が出るころに、何万円もする別売のフロッピードライブを後付けすれば、フロッピーにデータが保管できるようになったけど・・・

そして、私が考える最大の残念な点があった。それは、リズムの音にリバーブがかからなかったこと。リズムの音色自体はAWM音源で、ほとんど本物だったのだが、残響がかかっていない。他の音はお好みの設定でリバーブかけられたので、非常に良い響きだったのに、リズムは無残響なせいで、他の音との整合性が無く、トンチンカンな響きになる。リズムだけ再生したら、和室でドラム叩いてんの?状態。なので、全体としても、なんだかチープな薄っぺらい演奏に聞こえてしまってた。

他にもたくさん残念点があったHS-8。そのせいか、たった4年で、新機種が発売されてしまった。後継はEシリーズのEL-90。EL-90はHS-8の残念点をことごとく改善してあって、この発売によりエレクトーン界はピークを迎えた。いま思えば、HS-8はプロトタイプ機だったような気がする。

でも、私にとってHS-8は、あこがれのエレクトーン。就職してから楽器屋さんで中古で販売されていたHS-5という、HSシリーズの入門機種を衝動買いしてしまい、さらにやっぱりHS-8が欲しくなって買いなおすという、アホなことになった。当時、数年振りで弾くエレクトーン。就職に伴って遠隔地で独り暮らしをしていた寂しさも手伝って、何時間も何時間も弾いた。

その後、数々の引っ越しにも連れて回り、20年ほど所持していたが、数年前に敢え無く粗大ごみに。車に積み込むために分解し、ごみセンターに持ち込みした後、バリバリと音をたててつぶされるHS-8を見届けた。

画像は、ゴミになる前日のHS-8の雄姿である。

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