ピアノの先生選び~大人の再開ピアノ その7

ピアノレッスン備忘録

その6のつづき

ババァは、ソナチネの指導にも一家言あった。

なんでも子供のころ、故田村宏さんの録音した、教則本シリーズのカセットテープを擦り切れるまで聴いていたらしく、当時習っていた先生に、ババァが弾くソナチネを非常に褒められたとかで、得意中の得意って話。

ただでさえババァで情報が古いのに、これまた化石のような模範演奏(ごめんなさい・・・)をコピーして悦に入るなんぞ、自分にとっては不安要素しか無い。

しかも、自分が使用するソナチネは、今井版と言われるもの。今井版ソナチネとは、正式名称が

「ソナチネアルバム 第1巻 初版及び初期楽譜に基づく校訂版 今井顕 校訂 」

というもので、通称で今井版ソナチネということなのだ。昭和は言うに及ばず、平成の初期まで、日本国内でソナチネを習うときに使用する楽譜は、いわゆる「全音版」もしくは「音友版」(出版社の違いで変わる)という、過去200年近くに渡って時々の研究者やピアニストが最善と考える解釈を加えたものが主流だった。昔ソナチネを習ったと言えば、圧倒的大多数が、この古きソナチネを使用していると思う。

この古きソナチネの何が問題かというと、研究が進んだ現代の視点でみると解釈が間違っていたり、音が勝手に変更されていたりするので、当時の作曲家が意図したことを必ずしも反映していないと言われている。こういう楽譜のカテゴリーとして、校訂版とか解釈版といわれている。

それに対して、原典版というのが存在する。ざっくり言えば、作曲家が書いた通りの楽譜がそのまま出版されているもの。基本的に他の人の手が加わっていない。下手すると、強弱記号などの表現に関わる情報すら書かれていなかったりするくらいだ。しかし、さすがにこれでは分かりにくいということで、全音や音友のような校訂版が誕生したという訳だ。

このような歴史的経緯で長らくやってきた楽譜業界に新風が巻き起こる。
楽譜は原典版を忠実にそのまま掲載しながら、当時の作曲家の意図や、時代の流れや流行を可能な限り再現した解釈をプラスするという、いわば、原典版と校訂版と解釈版のハイブリッドな楽譜が誕生したのだ。この楽譜をソナチネでお作りになったのが今井さんという先生で、その先生の版ということで、「今井版ソナチネ」と呼ばれている。

その今井版ソナチネは、昔ながらのとは弾き方などが大分違うので、昔にレッスンをうけた人は自分も含めてかなり戸惑う。戸惑うのだが、きちんと根拠や説明などが書かれており、どれも納得のいくものであるので、戸惑うというよりは、目からうろこと言った方が正しい気がする。

で、その今井版ソナチネは、ピアニスト先生に強制的に購入を命じられたものなのだが、どうせやるなら古い情報をアップデートしたかったので、引き続き使用することにしたんだけど、ババァはそれが気に食わない。

ババァ「今井先生の講演は聞きに行ったけど、もう適当なことばっかり。」
「しかも今井先生は演奏が下手で下手で聴いてらんない。下手なんだから弾かなきゃいいのに。」
「そんな流行みたいなのに感化されるなんて、馬鹿もいいとこ」

と早速はじまった。

とりあえずピアニスト先生のところでやっていた2曲を弾くが、ババァは「ふーん」と鼻であしらい、「その曲はもうそれでいいんじゃない?違うのやるわ」ということで、ババァが大好きという、ソナチネ2番をやることになった。

つづく

コメント