その20のつづき
体験レッスンの最終日が来た。
あらかじめ月謝も用意していったが、断られることも考慮し、レッスン継続用と体験レッスン終了用のパターンを準備する。
この日はあいにく、日本中で大雪が降ってしまい、残念ながら車で行けるような状態ではなかったので、電車で行くことに。電車は直通がないので、いったん新幹線が止まる駅まで行き、そこからローカル線に乗り換えなければならない。スタイン先生のお宅は、駅から徒歩10分くらいであったので、助かった。
スタイン先生宅のピアノ室に入ってすぐ、レッスンをどうするか話合った。
スタイン先生は、自分で良ければ歓迎してくださるとの事。
でも、相変わらず、自分で満足いくレッスンができるのかどうか不安で有るらしく、物足りなくなったら他の素晴らしい先生に代わる事を迷わなくても良い、などとおっしゃる。
ほんと、謙虚なお方だ。
私としては、最優先して欲しい3つの事を守ってくださるのなら、ぜひお願いしたいと申しでた。改めていうと、奏法の強要はしないで欲しい、ツェルニーを一刻も早く終わりたい、体を傷めないようにしたい、の3つ。
今までの諸先生方にもレジュメはお渡ししているし、レッスンを始める前にも確認して了承を得てきているが、それでも、こんな有様になっていた。
最初は、そうするつもりであったのかも知れないが、レッスンが進むにつれ、先生には先生の思うところが発生し、
もう少しだけでも、やってみたらどう?
↓
もっとやったらいかが?
↓
せっかくやるんだからレベルアップしたら?
↓
なんでやろうとしないの?
↓
やれ!
みたいなレッスンになってしまうのだ。
せっかくやるんだから、というのは、それはそうなのかも知れないが、こちらとしては望んでいない。そもそもレイトスタータで試行錯誤を繰り返し、できない無理も重ねて重ねて今まで来ている。今ここでやっておけば将来にプラス、などというのは子供には結構だが、先が短く展望も無い中年男には、今こそが重要、というか、今しかないのだ。
あれもこれもという、横に広がったレッスンではなく、あくまで縦割りのレッスンが希望なのである。今回は、これができれば良し、それ以上は求めない。10やることがあるのだとしたら、5か6だけできれば良い。後の残りは、機会があったらいつか、機会がなかったらそれまで。全部やろうとしても、追いつかないし、成長期に伴ってならできるようなことでも、ガチガチの大人なら最初から無理なことも多いのだ。
ある研究によれば、ピアノ開始年齢の分水嶺は、11歳であるという。
それより前に始めた子と、それ以降に始めた子では、脳細胞の出来具合に差が生じるらしい。
遅く始めたとしても、脳細胞も増えるし神経も成長させる事ができるとの事だが、それでもどうしても無理なこともあるのだ。ピアノの先生は、もちろん子供のころからピアノをやっている人がほとんどなので、この「できない事」に対する理解が全く無い。
私は11歳どころか、中学校三年生の夏からピアノを始めたので、分水嶺はとっくに超えてからのピアノ人生。それでも、本当に大人から始めた人よりは幾分マシかと思うが、指が思うように開かないなど、どうにもできない事も多々あるのだ。
スタイン先生は、「肝に銘じておきます」とおっしゃってくださった。
もし、レッスンの時に、何か違うなとか、これは求めてない、なんて事が生じたら、その時にはすぐに言って欲しい。肝に銘じておくけど、調子に乗ってレッスンしてしまうかも知れないから、とも言ってくださる。
・・・・私のピアノ人生に、光明が見えた瞬間であった。
すぐに今年度分の支払いをすべてすませ、正式にレッスンをしていただくことになった。
長大ブランクを経てレッスンを再開してから丸二年と二か月、実に5人目にしてようやく、求める先生に出会った気がする。
ピアノを習うにあたって、一番重要な事は、環境でも楽器でもレベルでもなく、自分が求める、自分に合致した先生を探すことだ、とつくづく思う。先生を替えることを躊躇していては、老い先短い大人の時間を無駄に浪費するのと同じ。
大人でピアノを習いたい人は、選択肢の限界が来るまで、あきらめずに先生を探し続けるのをお勧めする。
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