ホルモン煮込み~散文レシピ

ホルモン煮込み和食

高知に「葉牡丹」というお店がある。街の中心部、大通りに面してビルの谷間に古い木造のお店があって、地元の人たちの間では古くから人気を博している居酒屋系のお店だ。一歩店に入ると縦に細長いカウンターがあり、座っている人の背中にぶつかりながらさらに奥に行くと、テーブル席が幾つか並び二階には座敷もある。 何処を見回してもぶつからずに人がすれ違える空間など無く、 いつも人でごった返している。天井を見上げてみると飴色になった梁や、むき出しの排気ダクト、動いているのが不思議なくらいの扇風機などが存在感を醸しだし、40年前は娘であったと思われる女性たちが、声を張り上げながら走り回っている。

もはや誰もがそんな事は忘れているのだが、ここは一応串かつのお店という事になっているらしく、メニューには「好み串揚げ」 なるものが存在する。しかし好み串揚げはあるのだが他には串かつのメニューは無く、注文すると楕円形の白いお皿に幅3mmくらいに刻んだキャベツが敷かれ、どんなに高貴な女性でも食べるのには困らないであろうサイズの串かつが、ランダムな具で5本乗っかってくる。 味付けは当然のようにウスターソースのみであり、しかも串かつの上に既にドバッとかけてある状態で、ドドンとテーブルの上にサーブされる。

にもかかわらず、自分自身も含めて大勢のお客が串揚げをオーダーしている。しかも3つとか4つの単位で。賢明な方は既にお気づきかと思うが、特別に美味しいと言えるほどのモノでもない。 では、なぜ人気メニューとなっているのか? 答えはご想像の通り?安いからだ。前述の内容で250円である(追記-2004年当時)。このお店は串かつに限らず、全般に値段が安い。メニューも数多く取りそろっており、料理が提供されるまでの時間も大変短い。 イラチな土佐っ子に人気があるのも当然といえば当然なのである。

この数ある激安メニューの中でも私が一番好きなのは、 なにを隠そう「ホルモン煮込み」だ。白い丸皿にお玉に一杯分ほどの量のホルモン煮込みが入れられ、一味唐辛子、青ねぎを刻んだものがトッピングされていて、これで一人前150円(追記-2004年当時)なのである。

ここで言うホルモンとは、豚の小腸、俗に言う「しろ」である。そう、臭い内臓の代名詞、豚ホルモンなのだ。実は私はホルモンがあまり好きでは無かった。あの臭いは食べものとは思えず、吐きそうになるのだ。焼肉などでスパイシーなタレを絡めて臭いをマスキングしたものなら食べられるのだが、煮込むという調理法で仕上げられた豚ホルモンなど、食べる事を想像した事すらなかった。

だが、先の、自称串かつ屋・実態は激安居酒屋に行った時、 私の知らないうちにホルモン煮込みがオーダーされ、飲み物よりも何よりも早く私たちの席に運ばれてきたのだった。鍋の中で完成しているものを盛り付けるだけなのだから、一番先に来るのは必然だったのだ。 ここで事件が起こった。何しろまだ何も口にして居ない宵の時間、 私は飢餓に近いものを感じていたのだ。いや、飢餓であったに違いない。 何を思ったのか何も思わなかったのか、私は目の前でホカホカと湯気を燻らせているホルモン煮込みを口に入れてしまった。もしかしたら外界から隔絶された店内の雰囲気が、無言のプレッシャーを私に与えていたのかもしれない。

とその時、口の中がとても清清しく爽やかに感じられ、後から、 ぷぅんとネギが、ピリッと一味が、ダブルでハモって来た。 ホルモン本体は歯が必要ないくらいに軟らかく、とろける様であった。 これは一体どうした事なのか。ホルモンは薄味の醤油ベースで調味されており、生姜やニンニクなど臭みをとるようなものが入れられている訳でもなかった。では何故私にこのような現象が起きたのか?

ポン酢醤油である。ここのホルモン煮込みには、最後にポン酢醤油が回しかけられていたのだ。これが臭みを消すだけでなく、清涼感をも与えている。しかも薄味であるにも関わらず、酸味との対比効果ではっきりとした食べ応えのある味を感じさせている。なんと… 酸味を加えるだけでマイナス1 からプラス2へ昇級させることができるとは…流石はお酢のチカラ… 脱帽である。

こうして私は、この居酒屋へ行くたびにホルモン煮込みを、 一人で2人前も3人前も注文し、皿に残ったポン酢醤油まで残らず平らげてしまう位の、ホルモン煮込み大好き人間へと変貌を遂げたのだった。

煮込みにするホルモンは、鍋物用として既に下茹で&カットが施されているものを使う。それをさらにもう一度茹でこぼし、かけうどんの出汁くらいの味付けをした汁に鷹の爪、みりん、ダシ昆布とともに入れ、一時間半くらい極弱火で煮る。かけうどんの出しを調合できない方は、市販のめんつゆを、かけうどんのつゆの割合よりは少し濃いくらいに薄めて使用すると良い。煮あがってから一旦冷ますと、より味が滲みて美味しい。食べるときは温め直し、煮汁は入れずにホルモンだけ器にいれ、ポン酢醤油を上から回しかけ、お好みの薬味をトッピングして提供する。


材料?食分豚ホルモン鍋物用下処理済のもの・好きなだけ
ポン酢醤油好きな銘柄を好きなだけ
我が家では馬路村のゆずポン酢
調味料出し昆布5cmくらい
みりん・お好みで、鷹の爪・一本
場合によってはめんつゆ
薬味刻みネギ・一味七味などお好みで
作り方ホルモンをタップリのお湯で茹でこぼす
少し濃い目のかけうどんのつゆを適量作る。
みりんを入れて甘めにすると美味しい
下処理したホルモンと鷹の爪、ダシ昆布を先ほど作ったつゆに入れて一時間半以上、極弱火で煮込む
食べるときにお好みの薬味を添え、ポン酢醤油を好きなだけかける

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