フキのきんぴら~散文レシピ

フキのきんぴら和食

子供の頃、春になると面倒くさかった。北海道では長い冬の間、ありとあらゆるモノは消費される一方であるのだが、春になると生産活動を始めなければならず、我が家ではその生産活動に子供である自分も参加が義務づけられていた。

具体的には、大人たちと共に山菜の採取に駆り出され、持ち帰った鬼のような量の山菜を加工保存するというのが我が家の春の生産活動であった。 ワラビ、ゼンマイ、蕗、北海道の山菜である行者ニンニクなどを、野菜が収穫できない冬に備えて漬け込むのだ。私が子供だった頃はまだ流通が今ほど発達しておらず、冬の北海道では思うように野菜など手に入らなかった。 北海道の田舎では昭和50年代くらいまで、一般家庭でもこのように春先から冬支度をするのも珍しい事ではなかったのだ。

山菜の中でも蕗の加工は一番大変だった。50cmくらいの長さの蕗をそのまま茹でて皮を剥く。大鍋が必要なのだが、当然そんな鍋はガスコンロで使えないから外での作業になる。グラグラ煮立った大鍋に蕗を10本くらい入れてさっと湯通しし、すぐに引き上げて冷水に入れる。熱がとれたら蕗の根もとの方から皮を剥いていく。皮を剥いた蕗は漬物樽の中に、たっぷりの塩を振りながら並べ入れていく… この動作を延々数時間。 子供でなくても嫌になるはずだ。

この方法で漬けた蕗は、色が黒っぽくなって歯ごたえもなくなり、 調理する前からすでに煮物のようにクタクタになってしまうのだが、 それでも冬の北海道では大変重宝であった。だが、私はこのクタクタの蕗はあまり好みではなく、あまり食べたいと思わなかった。しかし、漬け込む前の新鮮な蕗をきんぴらにしてシャキシャキと食べるのは結構美味しかった。

学生時代、本州から来た大学の同期生に、この蕗のきんぴらを出した事があった。その友人は「これって何の野菜?」と来たもんだ。まったく、これだから都会育ちは困ったもんだと半ば呆れて返事した。

「蕗に決まってるっしょ」

「えー、これは蕗じゃ無いよ。こんな蕗、見たことないもん」

「はぁ?じゃどんなのを蕗って言うのさ?」

「普通もっと細いよ。 アンゼリカってのあるじゃん?下手したらあれくらい細いのもあるし」

「アンゼリカってお菓子の材料に使ったりする緑色のまずいやつ? あれって蕗じゃないっしょー」

そんな蕗こそ見たことなど無い。 友人は、あれは絶対に蕗だと言って譲らず、どうしても真実を確かめたくなった私達はスーパーへ出かけた。

入店するや否や、真っ先に製菓材料売り場へ行く二人。…あった。 アンゼリカと書かれている小さな袋を手に取り、その裏を確かめてみると、

品名・アンゼリカ、原材料……ふき

この瞬間、蕗と言う植物は私の知っている蕗だけでなく細い種類もあり、日本で作られているアンゼリカは実は蕗であったという、衝撃の事実が同時に明らかになったのであった。

この友人もびっくりしたように、北海道の蕗は太い。 ちくわ位の太さの蕗がごく一般的である。道東の一部の地域では、螺湾蕗 (ラワンブキ)と言われる超大型の蕗もあるくらいだ。螺湾蕗は高さ3m以上に成長し、太さは細めのダイコンくらいもある。だが、その大きさに反して味は淡く、食感もサクサクと軽くて大変美味である。

蕗を食べるにはアク抜きをしなければならない。そのままではエグくて食べれたものではないのだ。蕗を買って来たらその日のうちに茹でて皮を剥くようにする。日にちが経つと変色し味も悪くなる。茹でるお湯には塩を入れ、さっと湯がいたらすぐに冷水にとり蕗の根元から皮を剥いていく。ぺティナイフなどで皮を引っ掛けて数センチほどめくり、 蕗の円周全部の皮をめくってから全部の皮を一気に剥くと早く処理ができる。その後、皮を剥いた蕗を一晩水に浸けておくとアクが抜ける。

アク抜きした蕗を3mm厚のナナメ薄切りにし、鷹の爪とごま油で炒める。味付けは昆布茶少々、みりん多め、薄口醤油を、入れたみりんの量よりも少し少ないくらい入れて調味する。仕上げに胡麻を混ぜる。 昆布茶を入れるとコクが出てまろやかな味に仕上がる。 同じくらいの大きさに切った竹輪などをいれるとより美味しい。


材料?食分一把(50cm5~6本程度)
調味料ごま油・大匙1
鷹の爪・一本
昆布茶・小匙4分の1
みりん・大匙2強
薄口醤油・大匙2弱
お好みでちくわ・白胡麻適量
作り方アク抜きをした蕗をナナメ薄切りにして、鷹の爪を入れたごま油で炒める
昆布茶・みりん・薄口醤油で調味する
汁気が無くなったら白胡麻をいれて仕上げる

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